鳥取地方裁判所 昭和52年(行ウ)4号 判決 1980年3月27日
米子市皆生一七二六番地
原告
東光産業有限会社
右代表者代表取締役
山川忠善
右訴訟代理人弁護士
下田三子夫
同
下田三千男
米子市西町一八番地二
被告
米子税務署長
今田貴隆
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
倉石忠雄
右両名指定代理人
一志泰滋
同
森田忠昭
同
守屋憲人
同
山口光男
同
土屋祥一
同
菅近保徳
同
益池勝
主文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1 被告米子税務署長が昭和五一年三月三一日付をもってした、原告の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度分法人税について、所得金額を二〇九〇万八五四一円、その法人税額を七二五万一二〇〇円とする更正決定及び重加算税額を一〇万五九〇〇円とする賦課決定のうち、所得金額一八六〇万八五四一円を超える部分、その法人税額六四三万一五〇〇円を超える部分及び重加算税額の部分をいずれも取り消す。
2 被告国は原告に対し、金二八七万三七〇〇円及びこれに対する昭和五二年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 2項につき仮執行宣言。
二、請求の趣旨に対する答弁
1 主文同旨。
2 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 原告は、石油類の販売、不動産の賃貸・同売買及び仲介ならびにその他の営業を業とする有限会社である。
2 更正決定取消の請求
(一) 被告米子税務署長(以下、税務署長という)は、昭和五一年三月三一日付をもって、原告の同四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度(以下、本件一係争年度という)分法人税について左のとおり更正及び加算税の賦課決定をし、原告に通知した(以下、前者を本件一更正決定、後者を本件一賦課決定という)。
(1) 所得金額 二〇九〇万八五四一円
(2) 法人税額 七二五万一二〇〇円
(3) 重加算税額 一〇万五九〇〇円
(二) 原告は右更正決定を不服として、昭和五一年六月一日付をもって被告税務署長に対し異議申立をしたところ、被告税務署長は国税通則法九〇条一項(他の審査請求に伴うとみなす審査請求)に該当するものとして、異議申立書を同年七月五日広島国税不服審判所長に送付し、同日をもって審査請求があったものとみなされた。同審判所長は昭和五二年一月三一日右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、原告は同年二月一八日右裁決書謄本の送達を受けた。
(三) しかし、本件一更正決定は、米子市上後藤三一三番一ほか二筆の土地(以下、本件土地一という)を原告が訴外岩崎哲夫(以下、岩崎という)から代金二二四四万円で譲り受け、これを訴外長田昭夫(以下、長田という)に同額で譲渡した件につき、原告が得た利益は左記(1)のとおり八九万六六〇〇円であるのに、左記(2)のとおり原告が三一九万六六〇〇円の利益を得たと認定したものである。
(1) 原告が土地代金以外に長田から受け取った額は三六〇万円である。一方、原告は、本件土地一の上の中国機動運輸株式会社(以下、中国機動という)所有の建物(以下、本件建物という)から中国機動を立退かせることを有限会社浦川商事(以下、浦川商事という)に依頼し、右建物を買い取らせ立退かせる費用として浦川商事に二五〇万円を支払った。また原告は、本件土地一に関し、訴外長岡文男(以下、長岡という)に一八万五〇〇〇円、登記費用として一万八四〇〇円をそれぞれ支出しており、支出合計は二七〇万三四〇〇円となる。したがって、原告が得た利益は八九万六六〇〇円である。
(2) 被告税務署長は、原告が土地代金の他に長田から三六〇万円を受け取り、一方本件土地一に関する費用として中国機動に二〇万円、長岡に一八万五〇〇〇円、登記費用として一万八四〇〇円の計四〇万三四〇〇円を支出したので、その差額三一九万六六〇〇円が原告の得た利益であると認定した。
(四) よって、税務署長が、原告の所得金額として認定した三一九万六〇〇〇円のうち八九万六六〇〇円を超える部分は、誤認に基づくものであり、右の正しい所得金額に基づき他の所得と合算し正しい所得金額を算出すると一八六〇万八五四一円となり、これを基礎として法人税額を算出すると六四三万一五〇〇円となるから、これを超える部分(即ち差引八一万九七〇〇円)は、誤った認定に基づくものであって違法であり、よってその取消を求める。
(五) また本件一賦課決定は左の理由により全部違法である。
(1) 本件一更正決定は再更正決定であって、これに先立ち被告税務署長は原告に対し昭和五〇年三月三一日付で法人税額を六八九万八〇〇〇円とする更正決定をし、なお重加算税額を三五万三四〇〇円及び一一二万一一〇〇円とする賦課決定をした。
(2) 本件(再)更正決定においては、法人税額を七二五万一二〇〇円と決定したので、法人税額の差額分三五万三二〇〇円について過少申告額が増加したとし、さらにこれを基礎として重加算税を賦課すべきであるとして、重加算税額一〇万五九〇〇円を賦課決定した。
(3) しかし、前記のとおり正しい法人税額は六四三万一五〇〇円であるところ、右(1)の更正決定による法人税額は六八九万八〇〇〇円であって、右の正しい法人税額を超えていたのであるから、本件一(再)更正決定においてさらに重加算税を賦課する余地はない。
(六) よって、重加算税を賦課する部分は全部違法であり、その取消を求める。
3 不当利得返還請求
(一) 被告税務署長は、昭和五〇年三月三一日付をもって、原告の同四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度(以下、本件二係争年度という)分法人税について左記のとおり更正及び加算税の賦課決定(以下、前者を本件二更正決定、後者を本件二賦課決定という)をし、原告に通知した。
(1) 所得金額 二七八一万六九四五円
(2) 法人税額 一一二七万一六〇〇円
(3) 重加算税額 一一五万二二〇〇円及び一八二万七〇〇〇円
(二) 原告は右更正決定を不服として昭和五〇年六月二日付をもって被告税務署長に対し異議申立をしたところ、被告税務署長は昭和五一年三月三一日付をもって原処分の一部を取消し、その余の申立を棄却する決定をした。そこで、原告はさらに同年五月一日付で広島国税不服審判所長に対し審査請求をした。しかし右の審査請求書を発送した郵便の日付が同年五月二日となっており、審査請求期限を一日徒過したとの理由で、審査請求は却下された。
(三) 被告税務署長のなした本件二更正決定には左記の誤認した事実を恨拠とする部分がある。
(1) 昭和四八年七月ないし八月ころ、訴外前田盛常(以下、前田という)所有の米子市西福原町字堀川尻戊一六二一番三の土地(以下、本件土地二という)及び訴外宮崎秀雄、同宮崎きぬ子(以下、宮崎らという)共有の同所一六二一番五の土地(以下、本件土地三という)を同人らが日本専売公社(以下、専売公社という)に売り渡す(一時的に広島ガス株式会社(以下、広島ガスという)が取得したが結局は専売公社との間の売買となった)につき、原告は仲介をした。
(2) 原告は、昭和四八年八月三日広島ガスから一九九二万円の送金を受け、前田に対し一八〇三万一六〇〇円を、宮崎らに対し一八八万八四〇〇円をそれぞれ支払い、全く利益を得ていない。
(3) 被告税務署長は、本件土地二の実質的所有者は訴外松浦雄治(以下、松浦という)であると考え、原告が右一九九二万円のうち一三二五万八五〇〇円を松浦に、一六五万円を宮崎らにそれぞれ支払い、差引残額五〇一万一五〇〇円は仲介料として収得したものと認定した。
(4) また、昭和四八年四月訴外斉木亨(以下、斉木という)がその所有する米子市福市字鶴田一六八七番の土地(以下、本件土地四という)を訴外佐藤厳(以下、佐藤という)に売却するにつき、原告が仲介をした。
(5) 原告は右売買につき買主佐藤から代金六五三万一〇〇〇円を受領し、売主斉木に対し同額を支払った。
(6) 被告税務署長は、原告が売主斉木に支払った額は五九四万円であり、差額五九万一〇〇〇円の利益を得たと認定して、本件二更正決定をした。
(7) 前記異議申立により、被告税務署長は原告が売主斉木に支払った額は六三〇万円であり、差額二三万一〇〇〇円が原告の得た利益であると認定し、原処分を一部取消しその余につき申立を棄却した。
(四) 被告税務署長は昭和五一年三月三一日付異議申立に対する決定により原処分の一部(前記(三)の(7)の分について)を取消して原告に対し次のとおりの課税決定をした。
(1) 所得金額 二六一二万三二〇四円
(2) 法人税額 一〇四九万〇九〇〇円
(3) 重加算税額 二七四万五三〇〇円
(五) しかし、前記(三)記載のとおりその合計額五二四万二五〇〇円の所得は存在しないからこれを控除して右(四)の各項目の金額は左記のとおりとなる。
(1) 所得金額 二〇八八万〇七〇四円
(2) 法人税額 七六一万七二〇〇円
(3) 重加算税額 一八八万四三〇〇円
(六) 以上の次第であるから、(三)及び(四)記載の被告税務署長の処分のうち(五)記載の正当な額を超える部分は、課税対象となる所得が全くないのにこれあるものと誤認してなした重大な瑕疵がある。また、格別の調査をしないで当時顕出されていた資料だけによっても良識ある一般人であればだれでも原告に前記所得がないとの結論に達したはずであるのに、ひとり被告税務署長のみが資料を曲解して独自の推理によって原告に前記所得ありと認定したものであって、その処分の瑕疵は客観的に一見して明白であった。したがって本件二更正決定及び右異議申立に対する決定は重大かつ明白な瑕疵が存するので無効である。
(七) 原告は右異議申立に対する決定で通告されたところに従って法人税額一〇四九万〇九〇〇円を納付したので、これと七六一万七二〇〇円との差額二八七万三七〇〇円が納め過ぎとなっている。
(八) 結局、被告国は前記被告税務署長の無効な処分により原告から法律上の原因がないのに二八七万三七〇〇円の納付を得てこれを利得しているので、原告は被告国に対し、右金額の返還及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五二年五月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 国家賠償法一条一項による損害賠償請求
(3の不当利得返還請求が認容されない場合において)
(一) 前記3記載のとおり、被告税務署長は本件二更正決定という公権力を行使するにつき、原告に課税すべき所得があるかどうかの点に関し十分な資料を収集したうえで認定すべき注意義務があるのにこれを怠った過失により、原告に対し課税すべき所得がないのにこれがあるものと誤認して本件二更正決定をなし、原告に対し納付する必要がない二八七万三七〇〇円を納付せしめ、よって同額の損害を原告に被らせたものである。
(二) よって右損害金二八七万三七〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五二年五月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2の(一)、(二)の各事実は認める。
(二) 同2の(三)の事実のうち原告が岩崎から本件土地一を代金二二四四万円で譲り受けこれを長田に同額で譲渡したこと、原告が本社土地代金以外に長田から受け取った額が三六〇万円であること、本件土地一の上に中国機動所有の建物が存しており原告が浦川商事に依頼して右建物から中国機動を立退かせたこと、被告税務署長のなした本件一更正決定において、本件土地一の岩崎から原告へさらに長田への売買に関し原告が得た利益は三一九万六六〇〇円であると認定したことは認め、その余の事実は否認する。
(三) 同2の(四)の事実は争う。
(四) 同2(五)の(1)、(2)の各事実は認める。ただし重加算税額一一二万一一〇〇円は修正申告に対するものである。
(五) 同2(五)の(3)の事実のうち昭和五〇年三月三一日付の更正決定による法人税額が六八九万八〇〇〇円であることは認め、その余の事実は争う。
3(一) 同3の(一)の事実は認める。
(二) 同3の(二)の事実は認める。
(三) 同3(三)の(1)の事実のうち本件土地二の所有者が前田であることは否認するがその余の事実は認める。
(四) 同3(三)の(2)の事実のうち昭和四八年八月三日広島ガスが原告あてに一九九二万円を送金してきた事実は認め、その余の事実は否認する。
(五) 同3(三)の(3)、(4)の各事実は認める。
(六) 同3(三)の(5)の事実は否認する。
(七) 同3(三)の(6)、(7)の各事実は認める。
(八) 同3の(四)の事実は認める。
(九) 同3の(五)、(六)の各事実は争う。
(一〇) 同3の(七)の事実のうち、原告が法人税額一〇四九万〇九〇〇円を納付したことは認め、その余の事実は争う。
(一一) 同3の(八)は争う。
4 同4の(一)の事実のうち原告が一〇四九万〇九〇〇円を納付したことは認めるが、その余の事実は争う。
三、被告の主張
1 本件一更正決定に至る経緯
(一) 原告は本件一係争年度の法人税について別紙一の確定申告欄記載のとおり確定申告書を被告税務署長に提出し、その後別紙一の修正申告欄記載のとおり修正申告書を被告税務署長に提出した。
(二) しかし、右修正申告書には本件建物の立退きに関して原告が得た利益二〇〇万円を含む合計二八五万円の所得金額が加算されていなかったので、被告税務署長は別紙一の更正欄記載のとおり更正するとともに、同欄記載のとおり重加算税の賦課決定をした。
(三) これに対し原告は別紙一の異議申立一欄記載のとおり異議申立をしたが、被告税務署長は原処分は正当であるとして別紙一の異議決定欄記載のとおり異議申立棄却の決定をした。
(四) 原告は右決定を不服として広島国税不服審判長に対し別紙一の審査請求欄記載のとおり審査請求をしたが、右不服審判所長は、審査請求のできる期限が昭和五一年五月一日までであるところ、原告は同年五月二日に審査請求をしたとして、別紙一の審査裁決一欄記載のとおり却下の裁決をした。
(五) ところが前記(二)の更正後に、原告が本件建物の立退きに関して得た利益は二〇〇万円ではなく三一九万六六〇〇円であり、ほかに減額すべき金額が一〇万円あることが判明したので、被告税務署長は差引一〇九万六六〇〇円を別紙一の更正欄記載の所得金額一九八一万一九四一円に加算して、別紙一の更正(再更正)欄記載のとおり再更正した。
(六) これに対し原告は別紙一の異議申立二欄記載のとおり異議申立をしたが被告税務署長は国税通則法九〇条一項の規定により右異議申立書を広島国税不服審判長に送付した。その結果、右異議申立は同条三項の規定により審査請求とみなされた。
(七) 右不服審判所長は、右審査請求については国税通則法一〇四条二項の規定を適用して前記更正に対する審査請求と併せて審理した結果、別紙一の審査裁決二欄記載のとおり棄却の裁決を行い、その裁決書謄本を昭和五二年二月一六日原告あてに送達した。
2 本件一更正決定の根拠
(一) 長田は産婦人科医院の建物を建築するために本件土地一を取得したのであるが、本件土地一のうち三一三番の一の土地の上には中国機動所有の本件建物が建っていた。そこで長田は、本件建物の取壊し工事等の一切を原告に依頼し、これらの費用と原告への謝礼を含め、本件土地一の売買代金二二四四万円とは別に三六〇万円を昭和四八年二月三日ころ原告に支払った。
(二) 原告は右の目的を達するため、本件建物を取得するための折衝を浦川商事に依頼して本件建物を浦川商事の浦川吉男(以下、浦川という)名義で取得させ、これを長岡に依頼して取壊した。
(三)(1) 原告の浦川商事に対する手数料の額は、本件建物売買によるあっ旋報酬額の七五〇〇円(一五万円×百分の五)が相当であると推計する。
(2) (仮に右七五〇〇円の主張が認められないとしても)長田は前記三六〇万円の他にさらに支払理由不明の一万五〇〇〇円を原告に支払っている。本件建物の売買の経緯に照らすならば、右一万五千円は浦川商事への手数料以外のものとは考えられない。そうするとこれは長田が原告を通じて浦川へ支払ったものと認められるので、原告の浦川商事に対する手数料は零となる。なお、この場合浦川商事に対する手数料の額を七五〇〇円と認定すると、右一万五〇〇〇円は長田から原告に支払われているので、その差額七五〇〇円を原告の得た利益として加算しなければならない。
(四) 長岡に対する取壊代金一八万五〇〇〇円は、長田が直接長岡に支払った。
(五) 原告は長田から受け取った三六〇万円の中から中国機動に対し本件建物の取得代金一五万円、本件建物の所有権移転登記費用一万八四〇〇円をそれぞれ支払っている。
(六) よって原告が長田から受け取った三六〇万円に、前記(三)の(2)の一万五〇〇〇円を加算した三六一万五〇〇〇円から、中国機動浦川商事に支払った金額及び登記費用計一八万三四〇〇円(浦川商事に対する手数料を一万五〇〇〇円とした場合)あるいは計一七万五九〇〇円(右手数料を七五〇〇円とした場合)を差し引くと、原告の本件土地一に係る加算利益の額は三四三万一六〇〇円(前者の場合)あるいは三四三万九一〇〇円(後者の場合)となる。そして本件一更正決定は原告の申告所得に右の差額の範囲内である三一九万六六〇〇円を加算したもので、適法である。
3 本件一賦課決定の根拠
原告は前記2の収入金額三六〇万円及び支出した費用一八万三四〇〇円あるいは一七万五九〇〇円をいずれも公表帳簿に記載しない等取引の一部を隠ぺいし、仮装したうえで所得金額を過少に記載した確定申告書及び修正申告書を提出した。そこで被告税務署長は国税通則法六八条一項を適用して左記のとおり重加算税一〇万五九〇〇円を賦課決定した。したがって右処分は適法である。
再更正の法人税額 更正の法人税額
(別紙一の更正(再更正)欄) (別紙一の更正欄)
七二五万一二〇〇円-六八九万八〇〇〇円=三五万三二〇〇円
三五万三二〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)×三〇パーセント=一〇万五九〇〇円
4 本件二更正決定に至る経緯
(一) 原告は、本件二係争年度の法人税について別紙二の確定申告欄記載のとおりの確定申告書を被告税務署長に提出し、その後、別紙二の修正申告欄記載のとおりの修正申告書を被告税務署長に提出した。
(二) しかし、右修正申告書には受取手数料五六〇万二五〇〇円を含む合計七三三万三一〇八円の所得金額が加算されていなかったので、被告税務署長は別紙二の更正欄記載のとおり更正するとともに同欄記載のとおり重加算税の賦課決定をした。
(三) 原告は右更正を不服として別紙二の異議申立欄記載のとおり異議申立をした。これに対し被告税務署長が調査したところ、前記(二)に記載した受取手数料の金額五六〇万二五〇〇円は誤りで五二四万二五〇〇円が正当であることが判明し、また右以外にも取消すべき金額があることが判明したので、合計金額一六九万三七四一円につき別紙二の異議決定欄記載のとおり原処分の一部を取消す旨の決定をした。
(四) 原告は右決定を不服として広島国税不服審判所長に対し別紙二の審査請求欄記載のとおり審査請求をしたが右不服審判所長は、審査請求のできる期限が昭和五一年五月一日までであるところ、原告は同年五月二日に審査請求をしたとして別紙二の審査裁決欄のとおり却下の裁決をした。
5 本件二更正決定の適法性
(一) 原告は、昭和四八年七月三一日ころ、松浦所有の本件土地二を広島ガスが買い受けるにつき仲介をしたが、その際、買主広島ガスから代金一八〇三万一六〇〇円を受け取り、売主松浦に対し代金一三二五万八五〇〇円を支払い、その差額四七七万三一〇〇円の仲介料収入を得た。
(二) 本件土地二の譲渡による実質所得者が松浦であり、原告が松浦に支払った同土地の売買代金は一三二五万八五〇〇円であったと被告税務署長が認定した理由は左のとおりである。
(1) 前田は昭和二五年三月一六日に裏地(畑)五畝二歩を取得したが同人が非農家であって、しかも同人の保有反別が不足し、旧農地調整法四条、農地法三条の規定による県知事の移転許可が得られないため、自己名義に登記ができず困っていた。そこで前田の妻の知人である訴外渡辺美子(以下、渡辺という)は、右農地と松浦が訴外森灘勝美(以下、森灘という)から譲り受けた本件土地二とを一緒にして同法の適用を受けられる反別にしたうえで、取得者を前田とする許可を得て、昭和三六年七月一四日には右農地を、同年一二月二七日には本件土地二をそれぞれ前田名義に登記した。したがって、前田は右農地が自己名義に登記された際本件土地二が一緒に同人名義に登記されたことを知らなかった。
(2) 松浦は本件土地二を広島ガスに譲渡する直前の昭和四八年七月ころ、本件土地二の登記簿上の所有者名義が前田になっていること及び前所有者の森灘が既に昭和四三年に死亡していることを奇貨として、原告代表取締役山川忠善(以下、山川という)を通じて、前田に本件土地二の名義上の譲渡人となってくれるよう依頼した。
(3) 前田は、本件土地二の登記が自己名義であること及び本件土地の実質所有者が松浦であることをこの時初めて知ったが、名義を貸すことを了承し、契約書等作成のため必要となる実印を山川に貸すとともに、同印鑑証明書も同人に手渡した。
(4) 本件土地二は一八〇三万一六〇〇円で広島ガスに譲渡されたが、その代金は、昭和四八年八月三日原告がいったん受領し(同日右代金と後記(三)宮崎ら共有の土地譲渡代金一八八万八四〇〇円との合計一九九二万円が広島ガスから山陰合同銀行米子支店の山川名義当座預金口座へ振り込まれた)、原告は、そのうち四七七万三一〇〇円を仲介料として取得し、その残額の一三二五万八五〇〇円を本件土地二の譲渡代金として同月六日松浦に対し右当座預金の小切手により支払った。
(5) 山川が経営している原告は、その資本金の半額ずつを山川と松浦(松浦の同族関係者を含む)で出資している会社で、山川と松浦はじっ懇の間柄であり、本件土地二の譲渡契約の一切の手続(交渉、契約書作成、代金受領等)は、仲介人たる原告が行っている。
(6) 前田は、本件土地二の譲渡代金をだれからも受け取っておらず、わずかに松浦に本件土地二の譲渡人としての名義を貸したことに対する謝礼金三万円を松浦から受け取っているにすぎない。
(7) 本件土地二の譲渡所得の昭和四八年分所得税確定申告及び納税は、前田名義により被告税務署長に対しなされているが、右申告及び納税は、本件土地二の仲介人である原告代表者山川が松浦の依頼によりすべて行っている。また、右譲渡所得の申告に伴う県市民税の申告、納税についても同様である。
(8) 被告税務署長は、右前田名義の譲渡所得の申告につき昭和五一年九月二九日減額更正し、その納付税額二〇〇万八六〇〇円を還付しているが、右還付金は、同年一〇月二九日、原告代表者山川が受領している。
(9) 被告税務署長が原告の法人税調査の際、昭和四九年一一月一〇日本件土地二の譲渡に関し松浦を反面調査したところ、同人は本件土地二の譲渡による実質所得者は同人であること及びその譲渡代金として原告から一三二五万八五〇〇円を受け取ったことを認めた(ただし、松浦は後日右の言を翻した)。
(三) 原告は昭和四八年七月三一日ころ宮崎ら共有の本件土地三を広島ガスが買い受けるにつき仲介したが、その際、買主広島ガスからの譲渡代金一八八万八四〇〇円は、昭和四八年八月三日原告がいったん受領し(前記(二)(4)のとおり、同日広島ガスから山川名義当座預金口座へ振り込まれた)、そのうち二三万八四〇〇円は仲介料として原告が取得し、その残額の一六五万円を本件土地三の譲渡代金として、同年七月一九日扶桑相互銀行米子支店の山川名義当座預金の小切手により三〇万円、同年八月六日前記山陰合同銀行米子支店の小切手により一三五万円をそれぞれ宮崎らに支払った。
(四) 原告は昭和四八年四月二三日ころ、斉木所有の本件土地四を佐藤が買い受けるにつき仲介をしたが、その際買主佐藤から代金六五三万一〇〇〇円を受け取り、売主斉木に対し代金六三〇万円を支払うことにより、その差額二三万一〇〇〇円の仲介料収入を得た。
(五)(1) 右売買取引については、売買金額をそれぞれ六五三万一〇〇〇円とする契約書(以下、A契約書という)、六三〇万円とする契約書(以下、B契約書という)、五九四万円とする契約書(以下、C契約書という)の三通りの契約書が作成されているが、右各契約書はすべて山川が作成したものである。
(2) 右のうちC契約書は売主斉木が自己の所得税の過少申告を正当化するために作成されたものである。
(3) A契約書とB契約書は、原告が収入手数料を隠ぺいするために作成されたものであって、買主佐藤に対してはA契約書売主斉木に対してはB契約書の各金額がそれぞれ真実の取引金額である。これは左の事実によって明らかである。
イ 原告は買主佐藤から六五三万円(昭和四八年四月二三日一〇〇万円、同年五月二八日五五三万円の合計金額)を受領している。
ロ 原告は売主斉木に対し取引銀行の山川名義当座預金口座から振り出した小切手二通で六三〇万円を支払っている(山陰合同銀行米子支店山川名義当座預金の昭和四八年四月二三日付額面一〇〇万円の小切手は斉木の妻洋子が裏書して同年五月二日に受領し、扶桑相互銀行米子支店山川名義当座預金の同年七月二日付額面五三〇万円の小切手は斉木本人が裏書して同月三日に受領している)。
ハ 斉木は、被告税務署長に対し、真実の取引を示すものとしてB契約書を提示するとともに、六三〇万円以外には何ら受領していない旨申立てている。
ニ 斉木名義で買主佐藤あてに発行されている昭和四八年四月二三日付額面一〇〇万円及び同年五月二八日付額面五五三万一〇〇〇円の領収書二通は、その筆跡、使用印鑑及び斉木の申立から、斉木またはその家族が発行したものではなく、原告側で作成したものと認められる。
ホ A契約書に使用された斉木の印鑑は同人自身のものではなく、原告側で作成したものと認められる。
ヘ 斉木と佐藤は互いに面識がなく、取引については両者とも原告と交渉して決定している。したがって原告がA契約書とB契約書を使い分けることは可能であった。
(六) 本件土地四のB契約書の地積一九八〇平方メートルは国土調査の成果による合筆前の四筆の土地(米子市福市字鶴田一六八七番、同一六九二番ないし一六九四番)の登記簿上の地積の合計であり、A契約書の地積二〇五〇平方メートルは右四筆の土地が合筆された後の地積である。原告は、売主斉木との取引については合筆前の地積を使い、買主佐藤との取引には合筆後の地積を使うことによって、売主側の売買代金と買主側の売買代金に差をつけたうえ二種類の契約書を作成したのである。なお、A、B両契約書とも、三・三平方メートル当りの単価は一万〇五〇〇円としている。
(七) 本件二更正決定は右各事実に基づく所得を原告の申告所得に加算してなされたものであって、そこには何ら原告の主張するような瑕疵はなく、本件二更正決定は適法な処分である。
6 仮に本件二更正決定に瑕疵が存するとしても、以下に述べるように右決定は無効ではない。
(一) 所得金額認定の誤りは、更正処分の明白な過誤でありかつ重大な瑕疵であるとはいえない。
(二) 瑕疵の明白性とは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが処分成立の当初から外形上客観的に明白であることをいうもので、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは直接関係がないところ、本件二更正決定の経緯に照らしてみても、本件二更正決定の認定に認識があることが処分成立の当初から外形上客観的に明白であったとはいえない。
(三) したがって本件二更正決定に原告主張のような瑕疵があるとしても、その瑕疵は重大かつ明白な瑕疵とはいえず無効ではない。
7 原告主張の不当利得は成立しない。
公権力の発動たる行政処分に基づいて行政主体が不当に利得をしている場合においては、その行政処分が無効であるか、または取消されて初めて不当利得を構成する。本件二更正決定は前記4で述べたように適法に確定しているところであり、右処分が無効でないことは前記5、6で述べたところである。したがって、原告主張の不当利得は成立しない。
8 原告の損害賠償請求について
(一) 本件二更正決定及び本件二賦課決定は、前記4、5で述べたとおり、行政処分として適法に確定しているものであり、国家賠償法においても行政処分が適法に確定しているものが違法とされることはない。
(二) また、右各課税処分の経緯に照らしてみても、被告税務署長には、右各課税処分をなすについての十分な根拠を持っていたのであり、過失は存しない。
四、被告の主張に対する原告の認否及び反論
1(一) 被告の主張2(三)の(1)の事実は否認する。手数料が七五〇〇円というのは、このような難事を依頼された手数料として、あまりにも常識をはずれた低額である。
(二) 同2の(四)の事実は否認する。一八万五〇〇〇円は原告が長田に支払った。
(三) 同2の(五)の事実のうち、本件建物の取得代金が一五万円であることは知らない。右金額が支払われているとすれば浦川商事が原告から交付を受けた二五〇万円のうちから支払ったものである。
2(一) 同5の(一)の事実のうち、原告が昭和四八年七月三一日ころ松浦所有の本件土地二を広島ガスが買い受けるにつき仲介したこと、その際広島ガスから代金一八〇三万一六〇〇円を受け取ったことは認めるが、その余は否認する。
(二) 同5(二)の(1)ないし(9)の各事実のうち、前田が本件土地二の登記名義人であったこと、その代金一八〇三万一六〇〇円は昭和四八年八月三日いったん原告が受領したこと、本件土地二の譲渡所得の確定申告及び納税が前田名義により被告税務署長に対してなされていること、右譲渡所得の申告に伴う県市民税の申告、納税についても同様であること、以上の事実は認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 前田は本件土地二を譲渡して所得を得たとして確定申告をして納税しており、また売買契約書も前田の実印により作成され、原告が前田に支払った売買代金一八〇三万一六〇〇円の領収証は前田本人が捺印し原告に交付している。
(四) 前田は昭和三六年一二月二七日に本件土地を森灘から買い受けて代金を支払い、所有権移転登記を経て以後これを所有して本件当時に至っていたが、右土地の隣接の土地の所有者との間に境界争いがあったので、その所有者原谷富夫及び大工良三との間で和解し、和解金を支払って領収証を受領している。もし松浦が所有者であるならば、少なくとも仮登記を付しておくはずであるのにそのような登記もない。
(五) 山川個人は松浦から左記のとおり合計一三二五万八五〇〇円を借り受けていた。
(1) 昭和四七年二月二〇日 三〇〇万円
この借入金は同月八日及び一二日に大都工業株式会社の株二万株を購入する代金の一部に充てた。
(2) 同年六月一〇日 五〇〇万円
山川は米子市宗像字目ケ平五三番の一及び三の各原野を買い受けるにつき有限会社東光台団地を設立してその名義で買ったが、その代金の一部に右借入金を充てた。
(3) 同四八年三月三〇日 五二〇万円
山川は右借入金を原告に貸付け、原告はそのころ米子市富益町字新開五、五四番他計一七筆の土地を買い受けたが、その資金の一部に右五二〇万円を充でた。
(4) 同年七月二五日 五万八五〇〇円
右借入金は山川が訴外高田有友から骨とう品を買い受けるにつき松浦が立替払いしたものである。
(六) 山川は、本件当時その所有する株式を売却して得た現金で金庫に保管していた手持金約二〇〇〇万円の中から前田に対し本件土地二の代金を支払った。
(七) 前記(五)記載の松浦からの借入金一三二五万八五〇〇円は、昭和四八年八月六日山陰合同銀行米子支店の山川名義の当座預金から小切手により返済した。
3 同5の(三)の事実のうち原告が宮崎らと広島ガス間の本件土地三の売買につき仲介したことは認め、原告が宮崎らに支払った本件土地三の譲渡代金が一六五万円であることは否認する。
4 原告は、前田・宮崎らと広島ガスとの間の売買の仲介につき仲介料を得ていない。
原告代表者山川の父は長年専売公社に勤務していたことから、専売公社はその寮を建設するに適した土地のあっ旋を山川に依頼してきた。山川は父が世話になっていた専売公社のために無料で奉仕することとし、個人的行為のつもりで前田所有の土地をあっ旋したものである。
5(一) 同5の(四)の事実のうち、本件土地四の斉木、佐藤間の売買の仲介を原告がしたこと、買主佐藤から代金六五三万一〇〇〇円を原告が受け取ったことは認め、その余の事実は否認する。
(二) 山川と佐藤は親戚であるが、原告の所有地の隣接地である本件土地四を佐藤が斉木から買い受けたいとの話しがあり、山川は、将来その隣接地を自分が買う必要が生ずるかもしれないので右売買を成立させたいと考え、無料であっ旋の労をとることにしたのである。
(三) 斉木への土地代金の支払については、契約時に佐藤から斉木に対し手付金一〇〇万円が支払われていたので、後に残金五五三万一〇〇〇円を佐藤が支払った。
6(一) 同5の(六)の事実のうち、本件土地四の面積が六二二坪(二〇五〇平方メートル)であること、土地の単価が坪一万〇五〇〇円であることを認め、その余の事実は否認する。
(二) 本件土地四は当初斉木が、その総面積が六〇〇坪であると述べていたので、これに従って代金を六三〇万円(一万〇五〇〇円×六〇〇坪)として契約書を作成していたが、後に六二二坪(二〇五〇平方メートル)であることが判明したので、代金を六五三万一〇〇〇円として契約書を作成し直した。
7 同6の事実は争う。
8 同8の(一)の事実は争う。
国家賠償の請求と処分の確定とは本来関係のないことである。瑕疵ある処分であっても出訴期間を徒過した場合に確定したものとされるが、これは法的安定に資する目的から定められたものであって、瑕疵ある処分をしたという事実は削減するものではない。むしろ法的安定のために行政処分自体は確定されるが、その代償として違法な処分により被らせた損害は賠償すべきものである。最高裁判例も「行政処分が違法であることを理由として国家賠償を請求するについてはあらかじめ右処分につき取消または無効確認の判決を得なければならないものではない。」とする(最判昭和三六年四月二一日、同旨最判昭和四二年九月一四日)。その理由は、要するに賠償を目的とする国家賠償の請求訴訟でその行政処分の瑕疵を主張することは行政処分の公定力に反しないからである。したがって抗告訴訟の出訴期間を徒過したために行政処分が確定していたとしても処分に瑕疵がある場合には賠償請求は認容されるのである。
第三、証拠
一、原告
1 甲第一号証、第二ないし四号証の各一・二、第五号証、第六号証の一・二、第七号証、第八及び九号証の各一・二、第一〇号証の一ないし六、第一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし一二、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一・二、第一六ないし一九号証、第二〇号証の一・二、第二一号証、第二二号証、第二三号証の一・二、第二四号証の一ないし三、第二五ないし二七号証。
2 証人浦川吉男、同斉木亨、原告代表者本人。
3 乙第一ないし一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証、第一七及び一八号証の各一ないし三、第二一号証の一・二、第二二号証の二、第二四ないし二九号証の各成立を認める。第一七号証の四・五の各表面の成立は認め、各裏面の成立は知らない。第三三ないし三五号証の各一、第三七及び第三八号証の各一の各原本の存在及びその成立を認める。その余の乙号各証の成立は知らない。
二、被告
1 乙第一ないし一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証、第一七号証の一ないし五、第一八号証の一ないし三、第一九ないし二二号証の各一・二、第二三ないし二九号証、第三〇号証の一ないし一〇、第三一号証の一・二、第三二号証の一ないし六、第三三号証の一ないし三、第三四及び三五号証の各一ないし四、第三六及び三七号証の各一・二、第三八号証の一ないし四。
2 証人田中博。
3 甲第五号証、第六号証の一・二、第一〇号証の二ないし五、第一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし一二、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一、第一六号証、第二二号証、第二三号証の一、第二四号証の一ないし三の成立は知らない。第八号証の一のうち、前田盛常名義部分の成立を否認し、広島ガス名義部分の成立を認める。第一〇号証の一のうち、前田盛常名義部分の成立は否認し、森灘勝美名義部分の成立は知らない。第二三号証の二の官公署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は知らない。第九号証の一・二、第二五号証の成立は否認する。その余の甲号各証の成立は認める。
理由
一、請求原因1及び2(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。
二、本件一更正決定の適法性について
(一) 成立に争いのない乙第一四号証(一部)、第二二号証の二、第二九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真意な公文書と推定すべき乙第一九号証の一・二、第二二号証の一、証人田中博の証言により真正に成立したものと認められる乙第二三号証、右乙第二二号証の一に照らして真正に成立したものと認められる甲第六号証の二ならびに証人田中博、同浦川吉男(一部)の各証言、原告代表者本人尋問の結果(一部)によると、被告の主張2の(一)、(二)の各事実ならびに原告は、長田から受け取った三六〇万円の中から二〇万円を本件建物の取得代金として浦川を介して中国機動に支払い、また登記費用として一万八四〇〇円を支出した事実、原告は、右三六〇万円とは別に二〇万円を長田から受領し、そのうちから一八万五〇〇〇円を本件建物取壊代金として長岡に支払い、一万五〇〇〇円を交渉手数料として浦川に支払った事実が認められる。
(二) 前掲乙第一四号証の供述記載、証人浦川吉男及び原告代表者本人の各供述中、原告が浦川に前記折衝の手数料として二五〇万円を支払った旨の部分そのほか右認定と異なる部分は、供述自体明確でない部分や一貫しない部分があることと、その余の前掲各証拠との対照により、信用するに足りないものというべきである。なお、右供述に沿う甲第五号証(二五〇万円の領収証)については、その金額、日付、「現金」という活字を丸で囲んだ部分の各記載とその余の記載とが異なる筆蹟と認められること、借地権譲渡代金、家屋取壊代を含む旨の但書の記載は証人浦川の供述とも矛盾すること等の点において、その記載の信憑性は疑問としなければならない。そのほかに、右(一)の認定を覆えすに足る証拠はない。
(三) したがって、右(一)のとおり原告が長田から受け取った三八〇万円から支出した合計額四一万八四〇〇円を差し引くと、原告が得た利益は三三八万一六〇〇円である。
(四) 成立に争いのない甲第一号証、第二及び三号証の各一・二、乙第一号証、第二四ないし二六号証ならびに弁論の全趣旨によれば、本件一更正決定は、被告の主張1の(一)ないし(七)の経緯により原告の申告所得に右(三)記載の差額の範囲内である三一九万六六〇〇円を加算してなしたものであり、その税額の算定は正当なものと認められるから、右決定は適法である。
三、本件一賦課決定の適法性
前掲甲第一号証、第三号証の一及び弁論の全趣旨によれば被告主張3の事実が認められ、右二に認定したところと対照して、重加算税一〇万五九〇〇円を賦課した本件一賦課決定もまた適法である。
四、請求原因3の(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。
五、本件二更正決定の適法性について
(一) 本件土地二が代金一八〇三万一六〇〇円で広島ガスに売り渡され、原告がその仲介をしたこと、昭和四八年八月三日広島ガスから原告に右代金と後記本件土地三の代金との合計一九九二万円が送金された事実は当事者間に争いがなく、証人田中博の証言、成立に争いのない甲第一〇号証の六、乙第三ないし九号証、第一七号証の一・三、第二八号証によると、被告の主張5(二)の(1)、(2)、(5)ないし(9)の各事実ならびに左の各事実を認めることができる。
(1) 松浦は米子市角盤町で医業を営んでいる。
(2) 被告税務署長が、前田名義による本件土地二の譲渡所得の申告が誤りであるとして昭和五一年九月二九日同申告にかかる納付税額二〇〇万八六〇〇円を前田に還付した際、山川は同年一〇月二九日右還付金ばかりでなく地方税の還付金についてもこれを併せ受領している。
(3) 前田は自己所有の農地と共に本件土地二の固定資産税を長年にわたって払っていたが、本件土地二の登記が同人名義になった後広島ガスへの売却の話が出る以前に、本件土地二の固定資産税を自分が松浦に代って払わされているということに気付いていた。
(4) 広島ガスからの前記売買代金一九九二万円は昭和四八年八月三日山陰合同銀行米子支店の山川名義当座預金口座へ振り込まれたが、同月六日、右口座から松浦に一三二五万八五〇〇円が支払われた(右支払の事実は当事者間に争いがない)。
右各事実を総合すれば、本件土地二の実質的所有者は松浦であり、一三二五万八五〇〇円は土地の売買代金として支払われたものと認めるのが相当である。
前掲各証拠に対比すると、甲第二七号証、乙第二七号証の各供述記載、原告代表者の供述中右認定に反する部分は信用することができず、右供述に沿う甲第一二号証の一ないし四、第一四号証の一ないし三は仮装のものと推認される。また甲第九号証の一・二、第二五号証は、前掲乙第二八号証に照らして、真正に成立したものとは認められない。他に右認定を覆えすに足る証拠はない。右に認定した事実によれば、被告の主張5(二)(4)のとおり、原告は、広島ガスから受け取った本件土地二の代金一八〇三万一六〇〇円のうち松浦へ支払った一三二五万八五〇〇円を差し引いた残額四七七万三一〇〇円を仲介料として取得したものと推認すべきである。
(二) 宮崎らが広島ガスに本件土地三を代金一八八万八四〇〇円で売り渡すにつき原告がその仲介をしたこと、右代金と前記本件土地二の代金とを合わせた一九九二万円が広島ガスから原告(山川名義口座)に送金されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第六号証、第一七号証の一、成立に争いのない乙第一〇及び一一号証、第一八号証の一・二、表面の成立に争いがなく、裏面は証人田中博の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証の四、右証言によれば、原告は、宮崎らに代金として昭和四八年七月一九日三〇万円、同年八月六日一三五万円合計一六五万円を支払ったが、その余の支払をしていない事実が認められる。右証拠に照らし、原告代表者の供述中右認定に反する部分は信用しがたく、甲第一一号証は真正に成立したものとは認められず、他に右認定に反する証拠はない。したがって、右代金額と支払額との差額二三万八四〇〇円は原告が仲介料として取得したものと推認すべきである。
(三) 原告が斉木から佐藤への本件土地四の売買の仲介をし、買主佐藤から代金六五三万一〇〇〇円を受け取った事実は、当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第一二及び一三号証、第一八号証の三、前掲乙第六号証、第一〇号証、第一七及び一八号証の各一、表面の成立に争いがなく、裏面は証人田中博の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一七号証の五、証人斉木亨(一部)、同田中博の各証言及び原告代表者本人尋問の結果(一部)によると、斉木は契約時の昭和四八年四月二三日ころに一〇〇万円、同年七月二日ころに五三〇万円をいずれも山川振出の小切手によって受け取ったことを認めることができる。乙第一四号証の供述記載、証人斉木及び原告代表者の各供述中には、山川が斉木に右五三〇万円の小切手の交付と同時に現金二三万一〇〇〇円を支払った旨の部分があるが、金額五五三万一〇〇〇円の領収証である甲第一六号証(乙第一五号証の一)は、成立に争いのない乙第一五号証の三、第一六号証、右証人斉木の証言の一部に照らしても真正に成立したものではないと認められ、一部のみを現金で支払った理由及びこれについて真正な領収証を欠く理由等について首肯しうる説明を見出しがたいので、右各供述は採用しえず、他に右二三万一〇〇〇円の支払の事実を認めるべき証拠はない。したがって、佐藤が支払った六五三万一〇〇〇円と斉木が受領した六三〇万円との差額二三万一〇〇〇円は原告が仲介料として取得したものと推認するのが相当である。
(四) 成立に争いのない甲第四号証の一・二、乙第二号証、弁論の全趣旨によれば、本件二更正決定は、被告の主張4の(一)ないし(四)の経緯により、右(一)ないし(三)に認定した事実に基づく所得を原告の申告所得に加算してなされたものであり、その詳細は左のようになるものと認められる。
(1) 修正申告書の所得金額 二〇四八万三八三七円
(2) 本件土地二に関して原告の得た利益 四七七万三一〇〇円
(3) 本件土地三に関して原告の得た利益 二三万八四〇〇円
(4) 本件土地四に関して原告の得た利益 二三万一〇〇〇円
(5) (2)ないし(4)の金額合計 五二四万二五〇〇円
(6) 本件二更正決定の所得金額 二七八一万六九四五円
(7) 異議申立に対する決定の所得金額 二六一二万三二〇四円
右決定においては、(5)の金額合計は正当であるが、他に取消すべき金額があることが判明したため、(6)の金額のうち一六九万三七四一円を取消すことにしたものである。
(8) (1)の金額に(5)の金額を加算したもの 二五七二万六三三七円
したがって、本件二更正決定中異議決定により取り消された部分を除く部分には原告主張の瑕疵の存在は認められない。
六、以上の次第で、本件二更正決定及びその一部を維持した異議申立に対する決定はいずれも適法であり、これにつき重大かつ明白な瑕疵あるいは違法の存在を前提にした原告の各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
七、よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 奥田孝 裁判官 辻本利雄)
別紙一
本件一係争年度
<省略>
別紙二
本件二係争年度
<省略>